優良パルプ普及協会

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バナナペーパーでカリブの国を支援 彩の国「さいたまケナフ」の会

2001年12月17日 日刊工業新聞 30面

 非木材の原料からパルプ化する方法を開発、普及に努める埼玉県の環境NGO「彩の国さいたまケナフの会」(代表・栄京子さん)は、日本政府やJICA(国際協力事業団)と共同で、バナナをパルプ化する機械をハイチなどのカリブの国々に設置し、 地域の発展を支援している。カリブでのバナナペーパー作りは、同地域の産業を育て、森林破壊防止し、認字率を向上させることができると期待されている。

 【環境保全、産業育成教育への活用に期待】
 このバナナをパルプ化する機械の名称は「紙造くん」。現在のパルプ化では通常、繊維の素に結び付き黄ばみの原因となるリグニンを取り除くためカセイソーダや漂白剤を用い、廃液の際にも化学処理が必要になるため、環境汚染の原因となっている。 それに対し、「紙造くん」は高速で材料をすりつぶすことで繊維を一瞬にしてばらばらにするため、薬剤を一切用いず、熱処理もいらず、水だけでパルプ化できる。また、ケナフのほか、バナナの葉・茎、こうぞ、わら、ミツマタ、割りばし、布など繊維が多く 含まれていれば、どんなものでもパルプ化できるという「世界に類のない機械」である。

 これに目を付けたのが、ハイチなどのカリブ諸国にバナナによる紙作りを導入し、地域の発展に役立てようという「バナナペーパー・プロジェクト」を推進していた外務省とJICAだった。これまでもバナナから紙をつくる試みはされてきたが、バナナペーパーを 実際に産業に結び付けるためには、量産化が必要になり、同会の「紙造くん」が注目を集めた。エクアドル大使夫妻は昨年6月に同会を見学に訪れた。そして9月、ODA(政府開発援助)として、「紙造くん」2台がハイチに設置、その後、ジャマイカ、セントルシアへも発注された。

 バナナの木の成長は早い。実がなると根本から切って捨てられるが、再び横から新しい芽が伸びて、3ヶ月から6ヶ月で、また次の実がなる。FAO(国連食糧農業機関)によれば2000年の時点で、世界の123カ国で、栽培されているバナナは、5800万トンに及ぶ。 もし、バナナから紙ができれば、その分、森林を伐採しなくても済む。全世界のバナナの茎・葉を用いれば、世界の製紙需要を賄うことも可能という。

 同地域の中でもハイチは最貧国に位置する。人口の約8割が貧困層で、教科書やノートなどの学用品も不足しているため、成人の認字率はわずか45%。そのため産業が育たず、就業率も25%に満たない。機械導入にあたりハイチを訪れた栄さんは、同国について 「治安も悪く、エイズがまん延し、空気も大変汚れている」と説明する。

 これまでハイチでは、食料品としてのバナナの輸出が重要な位置を占めていた。その上、歴史的に深い関係のあるヨーロッパが、発展途上国支援という形で、ハイチをはじめとするカリブ諸国から、一定の輸入枠を設け買い上げていため、ハイチのバナナ産業は保護されていた。 ところが、自由貿易を推進する米国の反対で、WTO(世界貿易機関)は05年までに、この輸出枠を撤廃することを決めた。外務省は、このため、同国の経済が悪化するかもしれないと懸念している。

 「食料品としてのバナナ産業は苦境に立たされる可能性が大きい。しかし、今までごみか肥料となるしかなかったバナナの葉や茎を紙にすれば、新たな産業が生まれる」と栄さんは語る。

 現在、ハイチやエクアドルには製紙業がなく、100&を輸入に頼っている。そのため、バナナペーパーが雇用を創出し、貧しい農民の収入源となると期待されているのだ。また、バナナペーパーを使って教科書、絵本、ノートなどを作り、子供たちの認字率を上げようという 試みも進められている。

 今後は同会と民間企業、優良パルプ普及協会、政府機関が協力し、バナナ紙製造技術の専門家派遣や、研修員の受け入れなどの人材育成のほか、ハイチなどにおけるバナナ工業農園(バナナ繊維による雇用推進センター)の開発支援、バナナ繊維を原料とする 製品作りに向けた一層の技術開発に力を入れていくという。

 外務省は今秋、UNICEF(国連児童基金)をスポンサーにカリブフェアを開催する予定で、バナナペーパーの販売およびプロモーションも行われるという。同会は今、これに備えハイチからバナナ繊維を輸入している。

 また、パルプを購入してくれる企業と、できた紙を世界の流通に乗せるための「出口」探しも課題のひとつ。栄さんは今後、バナナ紙普及のため、アメリカでも広報活動を進めていく予定だ。昨年、ハイチからの帰途、米国を訪れた際には、ポートランドの日系製紙工業に話を持ち掛けた。

 今日、世界で使われる紙の95%は木材から作られ、紙の消費量は世界的に年々上昇の傾向にある。アメリカは世界一の紙消費国。日本もリサイクル紙利用では先進国だが、それでもリサイクル率は55%程度で、また国内パルプ消費量の85%を輸入し、他国の森林を伐採している。こうした情況の下、今後ますます、非木材の重要性は増してくるだろう。

 【非木材紙普及への挑戦】
 ケナフは二酸化炭素を多く吸収固定し、成長が早く、紙の原料となるほか、食材としても使える「マルチ草木」。木材を使わずに紙が作れる原料として脚光を浴び、日本国内でも栽培されるようになった。同会は1997年に発足し、このケナフをパルプ化する方法を模索していた。 98年に石うすを用いケナフのパルプ化に成功、00年には大量にパルプ化する機械「紙造くん」を埼玉県の工業試験場や機械メーカーの協力で考案し、同機械は現在世界12カ国で特許を取得している。栄さんは「ケナフの栽培から利用までの流れを作り、ケナフをもっと普及させたい」と語る。 「無薬品のパルプ化機械の開発は紙作りにおけるパラダイムの転換になる」と胸を張る栄さんだが、実際のところ、既存の木材製紙市場を前に、ケナフヤバナナなど木材を用いない製紙の普及は難航しているという。薬剤を用いた通常のパルプ企業にとって、「煙たい存在」なのでは、と栄さんは説明する。

 現在、ケナフのほとんどはタイから輸入しているが、将来的には循環型社会を念頭に、日本国内でのケナフの栽培をさらに促進していくという。ところが、輸入ケナフからできる乾燥パルプが1トン約10万円と安価なのに対し、国内産は人件費などのコスト増で数倍にもなってしまう。 このため、引き取り手の製紙企業がなかなか見つからないのが現状だ。

 また、異品種のケナフを植えることによって既存の生態圏を破壊する懸念があるとして、ケナフを快く思わない人も多いという。しかしこれに対し、栄さんは「ケナフの種子は重くほかに飛んでいかないし、多種を傷つけることはない。これは学術的にも証明されている」と話す。 同会では、カリブ諸国にもケナフを植える計画があるという。

 栽培後の市場の確保が難しい点も、反ケナフ派の材料のひとつ。しかし、同会は今、その「出口」探しに最も力を注いでいる。もともとごみ肥料化の普及グループの有志が集まって結成された同会は、かつて有機肥料の普及に努めたが、化学肥料の企業が実際に有機肥料を作り始めるまでにはおよそ20年かかったという。

 「だから先は長い。20年スパンでいつも考えているんですよ。でも夢は大きく描いています」
2002年1月1日 北米毎日 29面